2026年5月、ヤマトホールディングスが2026年3月期の決算を発表した。売上高1兆8,656億円(前年比+5.8%)、営業利益283億円(前年比+99.2%)——ほぼ倍増という大幅改善だ(出所:ヤマトホールディングス株式会社 決算短信, 2026年5月)。SGホールディングス(佐川急便親会社)も2026年3月期に売上+11.2%・営業利益902億円を達成した。
物流2024問題(ドライバーへの年間960時間残業上限規制、2024年4月施行)から2年。大手の決算が大きく改善したのは、2024年に断行した運賃値上げ(ヤマト宅急便約2%、SG佐川急便約7%)の効果が2025〜2026年に利益として乗ってきたからだ。
しかし「企業が稼げるようになった=転職でコスパが良くなった」は別の話だ。
TimeValueが上場82社の有価証券報告書(EDINET開示)から算出した陸運業の業界平均実質時給は¥3,328/h——全28業種中17位(推計値、データ最終更新2026年4月)。好決算の裏側にある「転職コスパの実態」を、有報データで正直に解説する。
陸運業の実質時給¥3,328は全28業種17位——好決算でも「時給」は中下位圏
結論:運賃値上げで利益は回復したが、業界平均実質時給は依然として全業種中位〜下位
TimeValueが算出した全28業種の実質時給ランキング(2026年4月更新)では、陸運業は17位に位置する。
| 順位 | 業種 | 社数 | 平均実質時給 | 平均残業/月 | 業界TEI |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 海運業 | 11 | ¥5,265 | 4.7h | 131.8 |
| 2 | 証券、商品先物取引業 | 36 | ¥4,935 | 3.1h | 114.0 |
| 3 | 保険業 | 13 | ¥4,520 | 7.6h | 105.1 |
| 7 | 不動産業 | 141 | ¥3,864 | 3.0h | 98.4 |
| 8 | 銀行業 | 78 | ¥3,853 | 5.5h | 91.2 |
| 9 | 建設業 | 154 | ¥3,766 | 10.6h | 87.2 |
| 11 | 情報・通信業 | 455 | ¥3,461 | 5.8h | 83.6 |
| 17 | 陸運業 | 82 | ¥3,328 | 7.2h | 80.6 |
| 23 | サービス業 | 561 | ¥3,108 | 4.5h | 80.0 |
| 28 | 小売業 | 320 | ¥2,834 | 4.8h | 68.2 |
※上場4,003社・有価証券報告書データ(2026年4月更新)。各業種3社以上対象。TimeValue推計値。
この順位が示すことを端的に言えば、陸運業は「残業がほどほどに多く、基本給が中程度の業種」ということだ。月残業7.2hは建設業(10.6h)や電気・ガス業(10.9h)より少ないが、基本給水準が低いため実質時給は建設業を¥438/h下回る。
「2024年問題で残業が減った→時給が上がった」という直感は、残念ながら有報データには十分に表れていない。残業が減ること自体は「労働者の時間を守る」という意味では正しい方向だが、基本給が同時に大幅に上昇しなければ、実質時給の向上にはつながらないからだ。
「2024年問題2年後」に何が変わり、何が変わっていないか
結論:運賃は上がったが、「時給で稼ぐ」構造の転換はまだ道半ば
2024年4月に施行された働き方改革関連法によって、トラックドライバーの時間外労働は年間960時間以内(月平均80時間)に上限規制された。施行前の運輸業は年間2,000時間超の残業も珍しくなく、「長時間運転して残業代で年収を積み上げる」モデルが一般的だった。
2年後の2026年時点での変化は以下のとおりだ。
| 項目 | 2024年問題施行前 | 2026年現状 | 変化 |
|---|---|---|---|
| ドライバーの残業上限 | 事実上なし(特例業種) | 年960時間(月80h) | 制度的に改善 |
| 大手の運賃水準 | 低価格競争が続く | 2024〜2025年に値上げ実施 | 運賃は上昇 |
| 大手の業績(ヤマトHD) | 営業利益144億円(2025年3月期) | 営業利益283億円(2026年3月期)+99% | 大幅改善 |
| 帝国データバンク上場陸運業平均年収 | ¥567万(2023年度推定) | ¥645万(2024年度, +13.7%) | 上昇 |
| ドライバー不足(推定) | 約10万人 | 約14万人超(2025年度) | 悪化 |
| 業界平均実質時給(TimeValue推計) | — | ¥3,328/h(全28業種17位) | — |
大手企業の業績改善と平均年収の上昇は確かに起きている。しかしドライバー不足は2年間でさらに悪化しており、これが「採用競争→賃上げ」という形でようやく年収に反映されてきた段階だ。
「残業で稼ぐ」から「適正な基本給+短残業で稼ぐ」への転換は、上場大手では進みつつあるが、実質時給17位という順位は構造変化の途上を示している。
大手3社(ヤマトHD・SGホールディングス・NX HD)の有報年収と転職で見るべき数字
結論:持株会社の平均年収は高いが、事業会社の実質時給は個社確認が必須
陸運業大手の有価証券報告書(2025〜2026年3月期)に記載された平均年収を整理する。
| 企業名 | 証券コード | 持株会社/事業会社 | 有報平均年収 | 平均年齢 | 注記 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヤマトホールディングス | 9064 | 持株会社 | 約¥1,018万 | 約45歳 | 本社スタッフ中心。宅配事業会社は別集計 |
| SGホールディングス | 9143 | 持株会社 | 約¥769万 | 約43歳 | 佐川急便等の親会社 |
| NIPPON EXPRESSホールディングス | 9147 | 持株会社 | 約¥833万 | 47.5歳 | 日本通運等の親会社 |
出所:各社有価証券報告書(2025〜2026年3月期開示)。
重要な注意点:上記はすべて持株会社(ホールディングス)の数値だ。持株会社は本社経営企画・財務・法務などの管理職・高給職が中心であり、実際の輸送業務を担う事業会社(ヤマト運輸、佐川急便、日本通運各社)の平均年収・残業時間とは大きく異なる。
ヤマトHDの¥1,018万は、宅配ドライバーとは全く異なる人材(コーポレート)の平均であり、「ヤマトに転職すれば1,000万超」という読み方は誤りだ。転職候補として入社を検討する事業会社の有価証券報告書を、TimeValueの時給ランキングで個別に確認することが必須だ。
TEI 80.6——陸運業は「若手にとってコスパが出にくい」組織構造
結論:平均年齢41.3歳という中高年組織で、若手の実質時給は業界平均を下回りやすい
TEI(タイム効率指数)=実質時給 ÷ 平均年齢。TimeValueの独自指標で、「今の年齢でどれだけ効率よく稼げるか」を示す。TEIが高いほど若いうちからコスパよく稼げる業界・企業を意味する。
陸運業のTEI 80.6(業界平均年齢41.3歳)は、全28業種の中でも下位圏に位置する。
| 業種 | TEI | 実質時給 | 平均年齢 | 残業/月 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産業 | 98.4 | ¥3,864 | 39.3歳 | 3.0h |
| 建設業 | 87.2 | ¥3,766 | 43.2歳 | 10.6h |
| 電気・ガス業 | 88.6 | ¥3,734 | 42.1歳 | 10.9h |
| 情報・通信業 | 83.6 | ¥3,461 | 41.4歳 | 5.8h |
| 陸運業 | 80.6 | ¥3,328 | 41.3歳 | 7.2h |
| サービス業 | 80.0 | ¥3,108 | 38.9歳 | 4.5h |
| 小売業 | 68.2 | ¥2,834 | 41.6歳 | 4.8h |
※TimeValue推計値(2026年4月更新)。
陸運業のTEI 80.6は、同じく「2024年問題」業種である建設業(TEI 87.2)を6.6ポイント下回る。情報・通信業(TEI 83.6)にも劣る。不動産業(TEI 98.4)と比べると18ポイント近い差がある。
陸運業の「年功序列」は鉄道・運輸系の大企業に特に顕著だ。JR各社・大手私鉄・大手物流企業では、若手の給与は抑えられ、管理職・熟練技術者になって初めて給与が加速するモデルが多い。20代・30代が「今の時給」を最大化したい場合、陸運業よりTEIの高い業界(不動産・証券・海運等)の方が合致する。
建設業との比較——同じ「2024年問題」業種なのになぜ実質時給が¥438も違うのか
結論:建設業は技術者付加価値が高く、陸運業は輸送コスト競争の構造的制約を受けやすい
建設業(全28業種9位・実質時給¥3,766)と陸運業(17位・¥3,328)は、どちらも「2024年問題」が語られる業種だ。しかし実質時給には¥438/hの差がある。
| 比較項目 | 陸運業 | 建設業 | 差(陸運基準) |
|---|---|---|---|
| 業界平均実質時給 | ¥3,328/h | ¥3,766/h | −¥438/h |
| 月平均残業 | 7.2h | 10.6h | −3.4h |
| 業界TEI | 80.6 | 87.2 | −6.6 |
| 平均年齢 | 41.3歳 | 43.2歳 | −1.9歳 |
| 2024問題の影響 | ドライバー年960h上限 | 建設技術者年720h上限 | |
| 社数 | 82社 | 154社 | — |
なぜ実質時給に差が出るのか。背景には以下の構造がある。
建設業が高い理由
- 施工管理技士・建築士などの国家資格を持つ技術者の「スキルプレミアム」が給与に乗る
- 建設プロジェクトは数億〜数百億円規模で、一人当たりの付加価値が大きい
- 大手ゼネコン・スーパーゼネコンが業界平均を引き上げている
陸運業が低い理由
- 輸送はコスト競争が激しく、大量輸送による「薄利多売」の構造がある
- ドライバーの仕事はスキルが習得されると差別化要因になりにくく、給与の上限が制約される
- 低価格競争と多重下請け構造により、賃上げ余力が生まれにくい業者が業界に多い
もちろん個社差は大きい。同じ陸運業分類でもJR東日本・JR東海・JR西日本などの大手鉄道会社は設備投資・安全管理の専門性が高く評価され、単純なトラック輸送会社とは全く異なる賃金体系を持つ。
鉄道 vs. 物流/トラックの実態——「陸運業」一括りの罠
結論:同じ陸運業分類でも鉄道と物流は「別業種」と思って比較すべき
東証の業種分類(33業種)では、鉄道会社もトラック運送会社も同じ「陸運業」に分類される。しかし実態はまったく異なる。
| 比較項目 | 鉄道系(JR・私鉄) | 物流・トラック系 |
|---|---|---|
| 代表上場企業 | JR東日本、JR東海、東急、阪急阪神HD | ヤマトHD、SGホールディングス、NX HD |
| 年収水準(推定) | ¥700〜850万(鉄道大手) | ¥550〜830万(持株会社ベース) |
| 残業時間の特徴 | シフト管理が厳格で残業は抑制される傾向 | 2024年問題以前は長残業が多かった |
| スキル要件 | 安全管理・施設保守の専門知識 | 大型免許・物流管理・ルート最適化 |
| 転職市場の特徴 | 終身雇用志向が強く、転職市場は限定的 | 中途採用が活発。特にドライバー不足で引く手あまた |
| キャリアパス | 内部昇進中心 | 近年はロジスティクス管理職の外部採用が増加 |
「陸運業に転職する」と一口に言っても、JRに転職するのか佐川急便に転職するのかでは、実質時給・残業時間・キャリアパスが根本的に異なる。TimeValueの時給ランキングで個社の実質時給・TEI・残業時間を確認し、「陸運業全体の平均」ではなく「入社予定企業の数値」で判断することが不可欠だ。
まとめ:「物流2024問題2年後」で陸運業への転職コスパはどう判断すべきか
結論:大手好決算に惑わされず、個社の実質時給とTEIで判断せよ
| 確認項目 | 陸運業の実態 | 評価 |
|---|---|---|
| 実質時給(業界平均) | ¥3,328/h(全28業種17位) | △ 中〜下位圏 |
| 月残業時間 | 7.2h(中位圏) | ○ 建設・電気ガスより少ない |
| 業界TEI | 80.6(下位圏) | × 低め |
| 平均年齢 | 41.3歳(中位) | △ 年功序列色あり |
| 2024問題の影響 | 残業上限規制→運賃値上げ→大手好決算 | ○ 待遇改善の兆し |
| 大手企業の業績 | ヤマトHD+99%・SG HD売上+11% | ◎ 回復基調 |
| 個社差 | 鉄道系vs物流系で大差あり | △ 要個別確認 |
| 採用需要 | ドライバー不足14万人超で求人旺盛 | ◎ 転職しやすい |
ヤマトHDの営業利益+99%という数字はインパクトが大きいが、それは「運賃値上げで大手が儲かった」という収益構造の改善であり、「陸運業全体の転職コスパが上がった」とは別の話だ。
陸運業への転職で見るべき判断フローは以下のとおりだ。
- 業界内の「どのカテゴリ」か確認:鉄道系(JR・大手私鉄)か物流系(宅配・トラック・3PL)かで年収・残業・キャリアパスが根本的に異なる。
- 個社の実質時給をTimeValueで確認:時給ランキングで入社予定企業の実質時給・TEI・月残業を業界平均(¥3,328・TEI 80.6・7.2h)と比較する。
- 持株会社か事業会社かを確認:ヤマトHD・SG HD・NX HDはいずれも持株会社であり、実際の業務を担う事業会社の数値は別途確認が必要だ。
- TEIで「今の年齢のコスパ」を見る:陸運業のTEI 80.6を上回る個社を選ぶことで、業界平均を超えるコスパを実現できる。
- 2024問題後の採用条件を交渉材料に:ドライバー不足14万人超という構造は転職交渉で有利に働く。市場価値を把握したうえで「実質時給ベースの年収交渉」に活かす。
業界・企業ごとの実質時給・TEI・残業時間の詳細はTimeValueの時給ランキングで検索できる。新卒・第二新卒の方は新卒ランキングでも初任給ベースの実質時給を確認してほしい。
関連記事として、業界別の実質時給ランキング2026(全28業種完全比較)、建設業の実質時給と2024年問題(同じ2024問題業種との比較)、不動産業の実質時給(TEI 98.4・月残業3.0hで対照的な業種)も合わせて読むことで、インフラ・物流系転職の全体像が見えてくる。
本記事の実質時給・TEI・業界平均・社数は、EDINETに開示された有価証券報告書のデータを基にTimeValueが算出した推計値です(対象82社、データ最終更新2026年4月)。ヤマトホールディングス・SGホールディングス・NIPPON EXPRESSホールディングスの平均年収は各社有価証券報告書(2025〜2026年3月期)の公開データを引用しています。ヤマトHD 2026年3月期決算は同社決算短信(2026年5月公表)を出所としています。帝国データバンク「上場企業の平均年収動向」は2024年度決算集計(2025年公表)を参照しています。本記事の推計値は公開EDINETデータとTimeValueの計算手法を用いた試算であり、個別企業の判断に際しては最新の開示情報もご確認ください。