2026年9月24日、マイナビが「転職活動実態調査(2026年)」を公表した。転職活動をした人の27.9%が主な動機に「給与」を挙げ、約7割が「年収が下がる転職は受け入れられない」と答えている(出所:マイナビ、2026年9月24日)。
同社の「転職動向調査2026年版」(2026年3月23日公表)によると、2025年の正社員の転職率は7.6%で、調査開始以降最高だった。転職後の平均年収は533.7万円で、転職前より19.2万円増えている。
ただ、年収が増えても残業が増えれば、1時間あたりの稼ぎ(実質時給)は下がることがある。TimeValueでは上場企業4,026社の有価証券報告書(EDINET開示、データ最終更新2026年8月)から実質時給を算出している。このデータで「業種を変えると時給がいくら変わるか」を検証する。
「年収が上がった=コスパが上がった」とは限らない理由
結論:業種によって残業時間が約2.7倍違い、年収だけ比べても実態は見えない
異業種転職で見落としやすいのが残業時間の違いだ。業界平均の月残業は、繊維製品の7.8時間から陸運業の21.4時間まで約2.7倍の開きがある。年収が上がっても残業が増えれば、時給の改善は小さくなる。
次の例はどれも「年収600万円・月残業10時間(時給約¥2,899)から、年収700万円になった転職」だ。転職先の残業は、その業種の平均で計算している。
| 転職先の業種 | 年収 | 月残業(業界平均) | 推計実質時給 | 前職比 |
|---|---|---|---|---|
| 銀行業 | 700万円 | 10.0時間 | 約¥3,382/h | +約¥483/h |
| 不動産業 | 700万円 | 13.7時間 | 約¥3,293/h | +約¥394/h |
| 建設業 | 700万円 | 20.4時間 | 約¥3,145/h | +約¥246/h |
同じ年収700万円への転職でも、残業の差で時給は¥237/h変わる。年間2,000時間で換算すると約47万円だ。転職コスパを判定する基準は「年収が上がったか」ではなく「実質時給が上がったか」になる。
業種別の実質時給ランキング:どの業種に転職すれば時給が上がるか
結論:現実的な転職先では医薬品¥4,361・不動産¥4,076が上位。小売業との差は最大¥1,792/h
以下はTimeValueが算出した業界平均の実質時給から、主要業種を抜き出したものだ。持株会社と残業データの無い企業を除いた対象企業(1,399社)で集計し、対象企業が3社以上ある32業種で順位を付けている(データ最終更新2026年8月)。
| 順位 | 業種 | 対象企業数 | 平均実質時給 | 月残業時間 | TEI |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 海運業 | 4社 | ¥7,030 | 13.2h | 184.0 |
| 3 | 医薬品 | 25社 | ¥4,361 | 13.6h | 102.3 |
| 4 | 不動産業 | 35社 | ¥4,076 | 13.7h | 103.8 |
| 5 | 建設業 | 78社 | ¥4,013 | 20.4h | 93.7 |
| 6 | 電気・ガス業 | 18社 | ¥3,943 | 15.4h | 92.5 |
| 7 | 証券、商品先物取引業 | 5社 | ¥3,788 | 15.0h | 90.7 |
| 8 | 卸売業 | 117社 | ¥3,693 | 13.9h | 88.1 |
| 20 | 銀行業 | 40社 | ¥3,259 | 10.0h | 80.7 |
| 22 | 情報・通信業 | 151社 | ¥3,177 | 13.3h | 83.5 |
| 24 | 保険業 | 5社 | ¥3,155 | 11.2h | 76.7 |
| 31 | サービス業 | 146社 | ¥2,793 | 17.4h | 72.1 |
| 32 | 小売業 | 85社 | ¥2,569 | 15.7h | 62.1 |
海運業は¥7,030と突出しているが、残業データを開示している対象企業は4社だけだ。証券・保険も対象は5社ずつで、業界全体の姿とはずれる可能性がある。対象企業が20社以上ある業種で見ると、医薬品(¥4,361)と小売業(¥2,569)の差は時給で1,792円、年間2,000時間換算では約358万円になる。
上位業種の月残業は13〜14時間台で、全業種の中では中くらいだ。つまり時給が高い理由は残業の短さではなく、年収水準の高さにある。医薬品は特許と研究開発、不動産は保有資産、海運は船という大きな資本で稼ぐため、人数に対して利益が大きい。
一方で建設業は時給が5位と高いものの、残業は月20.4時間と長い。時給だけでなく、働く時間の長さもあわせて見ておきたい。
業種別「転換前後の時給変化」シミュレーション
結論:小売・サービス・IT業から医薬品・不動産へ移ると、時給は+¥900〜¥1,800上がる計算になる
今いる業種ごとに、主な転換先と時給の変化をまとめた。年間の差額は「時給差×2,000時間」の概算だ。海運業は参考値として載せている。
小売業(¥2,569)からの転換:
| 転換先業種 | 転換先時給 | 時給の変化 | 年間換算の差額(概算) |
|---|---|---|---|
| 医薬品 | ¥4,361 | +¥1,792 | +約358万円 |
| 不動産業 | ¥4,076 | +¥1,507 | +約301万円 |
| 卸売業 | ¥3,693 | +¥1,124 | +約225万円 |
| (参考)海運業 | ¥7,030 | +¥4,461 | +約892万円 |
サービス業(¥2,793)からの転換:
| 転換先業種 | 転換先時給 | 時給の変化 | 年間換算の差額(概算) |
|---|---|---|---|
| 医薬品 | ¥4,361 | +¥1,568 | +約314万円 |
| 不動産業 | ¥4,076 | +¥1,283 | +約257万円 |
| 建設業 | ¥4,013 | +¥1,220 | +約244万円 |
| (参考)海運業 | ¥7,030 | +¥4,237 | +約847万円 |
情報・通信業(¥3,177)からの転換:
| 転換先業種 | 転換先時給 | 時給の変化 | 年間換算の差額(概算) |
|---|---|---|---|
| 医薬品 | ¥4,361 | +¥1,184 | +約237万円 |
| 不動産業 | ¥4,076 | +¥899 | +約180万円 |
| 卸売業 | ¥3,693 | +¥516 | +約103万円 |
| (参考)海運業 | ¥7,030 | +¥3,853 | +約771万円 |
これはあくまで業界平均どうしの比較だ。個社の時給は業界平均から大きく外れることがある。情報・通信業の平均は¥3,177だが、ジャストシステムは¥6,211と約2倍だ。ただし同社の月残業は49.1時間と長く、電通総研(¥5,350・月12.2時間)のほうが働き方とのバランスは良い。
証券業も、平均¥3,788に対してジャパンインベストメントアドバイザーは¥4,579だ。業種で大まかに絞ったら、個社の実質時給ランキングで最後に確認しよう。
異業種転職で実質時給を上げる3つの確認ポイント
結論:「転職後の時給>今の時給」が最低条件。残業とTEIもあわせて確認する
1. 転職先の業種の実質時給が、今より高いか
上のランキングで転職先の平均実質時給を見て、今の業種の平均と比べる。差がプラスであることが、転職コスパが良くなる最低条件だ。
2. 残業時間が増えないか
建設業(月20.4時間)や陸運業(月21.4時間)は残業が長い。銀行業(月10.0時間)や保険業(月11.2時間)は短めだが、時給は中位にとどまる。高時給の医薬品・不動産は月13時間台で、今より残業が増えないかを個社の数字で確かめたい。
3. 20〜30代ならTEI(タイム効率指数)も見る
TEIは実質時給を平均年齢で割ったTimeValue独自の指標で、若いうちにどれだけ効率よく稼げるかを表す。海運(184.0)・不動産(103.8)・医薬品(102.3)はTEIも上位だ。20〜30代の転職では、時給の高さに加えてTEIが上がる転職先を優先しよう。
まとめ:異業種転職の実質時給チェックリスト
異業種転職でコスパを最大化するには、次の3ステップを踏む。
- 今の実質時給を知る: 年収 ÷(月所定労働時間×12 + 月残業×1.25×12)で自分の時給を計算する。
- 転職先の業種の実質時給・残業・TEIを確認する: TimeValueの時給ランキングで業種を絞り、個社の数字を確かめる。
- 差を年間の金額に直す: (転職後の時給 − 今の時給)× 年間労働時間 = 年間の差額。転職の手間やリスクに見合うかを判断する。
| 確認軸 | 確認方法 | コスパが良くなる目安 |
|---|---|---|
| 実質時給 | TimeValueランキング | 転職先>今の業種 |
| 月間残業 | 有価証券報告書(EDINET) | 転職先 ≦ 今の業種 |
| TEI(30代以下) | TimeValueランキング | 転職先>今の業種 |
「年収が上がった」満足と「実質時給が上がった」コスパは別物だ。業界別の実質時給とTEIを転職判断に組み込めば、長い目で見たキャリアのコスパが大きく変わる。就職活動中の方は新卒向けの時給ランキングも参考にしてほしい。
あわせて読みたい:転職コスパを「TEI」で測る方法、転職の年収交渉タイミングと金額の正解。
注:実質時給は「年収 ÷(月所定労働時間×12 + 月平均残業時間×1.25×12)」で算出。業界平均の実質時給・月間残業時間・TEIは、上場4,026社のEDINET開示データ(2026年8月更新)のうち、持株会社と残業データの無い企業を除いた対象企業1,399社で集計したTimeValueの推計値。年間換算の差額は時給差×2,000時間の概算で、個人の労働時間によって変わる。
【2026年10月2日更新】業界平均を対象企業で集計し直し、数値を最新データに差し替えた。あわせて、冒頭で引用していた調査の数値と公表日を一次ソースで確認し、修正した。