「固定残業代45時間分を含む」——求人票でよく見るこの表記。これは損なのか、得なのか。
結論から言うと、みなし残業(固定残業代)は設定時間を超えて働くほど損になる仕組みだ。ポイントは「額面年収ではなく実質時給で比較すること」。TimeValueでは上場企業4,000社超の有価証券報告書データをもとに残業時間を算出し、みなし残業込みの「本当の時給」を可視化している。本記事では、その計算方法と損・得の分岐点を明示する。
みなし残業(固定残業代)とは何か
結論:一定の残業代を月給に含み、超過分のみ追加払いする制度
みなし残業制度(固定残業代制)とは、「月○時間分の残業代をあらかじめ月給に含める」という賃金設計だ。例えば「月給30万円(固定残業45時間分を含む)」と書かれた求人なら、30万円の中に45時間相当の残業代がすでに組み込まれている。
法律上、設定時間を超えた分は別途支払いが必要(超過分未払いは労働基準法違反)。ただし45時間ぴったりに収まるよう業務量を調整される、もしくは超過分の申請を暗黙に抑制されるケースが実態としては多い。
みなし残業が多い業界
- 広告・マーケティング
- IT・SIer(SES含む)
- 不動産・デベロッパー
- 人材・コンサルティング
- 外食・小売チェーン(店長職など)
みなし残業は損か得か?実質時給で計算する
結論:みなし時間内なら「ほぼイーブン」、超えると急速に損になる
基本の計算式
基本時給(みなし含まない月給ベース)
= (月給 − みなし残業代相当額) ÷ 所定労働時間
みなし残業代相当額
= 基本時給 × みなし時間 × 割増率(1.25)
上式は連立になるが、シンプルに整理すると次の近似式で求められる。
みなし残業込み実質時給(月60時間労働の場合)
| 月給 | みなし時間 | 実際の残業 | 実質時給(概算) |
|---|---|---|---|
| 30万円 | 45時間 | 45時間 | 約2,000円 |
| 30万円 | 45時間 | 60時間(超過15h) | 約1,930円 |
| 30万円 | 45時間 | 80時間(超過35h) | 約1,810円 |
| 30万円 | 0時間(固定なし) | 45時間残業 | 約2,070円 |
※所定労働時間を月160時間、残業割増を1.25倍として算出した概算値。
ポイントは「みなし残業がないケースと比較したときの差」。固定45時間・実際45時間なら、残業代が全額支払われる会社と大差ない。しかし実際の残業がみなし時間を超えた瞬間から、超過分が支払われない限り実質時給は下がり続ける。
「やめとけ」と言われるみなし残業求人の特徴
特徴1:みなし時間が36〜45時間を超える
時間外労働の法定上限は原則月45時間(三六協定の一般上限)。みなし時間が45時間に近い、または超えている求人は、常態的に深夜・休日労働が発生していると会社側が見込んでいる証拠だ。
TimeValueのデータでは、みなし残業時間が多い業界ほど平均残業時間も長い傾向があり、「固定60時間含む」といった求人は実際には80〜100時間労働になっているケースも散見される。
特徴2:基本給が著しく低い
固定残業代を差し引いた実質基本給(みなし分を除いた額)が最低賃金ギリギリになる場合がある。計算例を示す。
- 月給25万円(固定60時間含む)
- みなし残業代 = 基本時給 × 60 × 1.25 で逆算すると基本給は約16.7万円
- 月160時間で割ると基本時給は約1,044円(東京都の最低賃金1,163円を下回る場合も)
このような場合、求人票の「月給25万円」というキャッチーな数字に惑わされてはいけない。
特徴3:残業実績の開示を拒む
有価証券報告書で平均残業時間を開示している上場企業と違い、非上場の中小企業や一部のベンチャーは残業実態が見えにくい。口コミサイトや女性活躍推進データベース、さらにTimeValueの時給ランキングで業界平均と照らし合わせることが重要だ。
特徴4:TEI(タイム効率指数)が低い
TimeValueが独自に算出する TEI(タイム効率指数)=推定時給 ÷ 平均年齢 は、「若いうちにどれだけ効率よく稼げるか」を示す。みなし残業が多い企業はTEIが低くなりやすく、20〜30代のキャリア形成期における機会コストが高い。
みなし残業の損・得を見分ける5つのチェックポイント
-
みなし時間数を確認する(45時間以下が目安) 求人票の「固定残業代○時間分含む」の数字を必ず確認。36時間以下なら比較的健全、45時間超は要注意。
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基本給を逆算して最低賃金と比較する 月給からみなし残業代を引いた額を所定労働時間(通常160時間)で割り、最低賃金を下回っていないか確認する。
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実際の残業時間を口コミ・有報で確認する OpenWork・Glassdoor・女性活躍データベースで残業実態を調べる。TimeValueでは有価証券報告書から取得した平均残業時間を掲載しており、公式データとして信頼性が高い。
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超過残業代の支払い実績を面接で聞く 「固定時間を超えた場合、実際に差額が支払われていますか?」と直接聞く。曖昧な回答は赤信号だ。
-
同業他社の実質時給とTEIをTimeValueで比較する 時給ランキングでは業界・規模別に実質時給とTEIを比較できる。新卒・第二新卒なら新卒ランキングで初任給ベースの時給も確認しよう。
実質時給で見た「みなし残業あり」vs「なし」の比較
以下は同じ年収600万円を想定した場合の、みなし残業の有無による実質時給の違いだ。
| 条件 | 月給ベース | 実際の月残業 | 年間総労働時間 | 実質時給 |
|---|---|---|---|---|
| みなし残業なし・残業実費払い | 50万円 | 20時間 | 約2,160時間 | 約2,780円 |
| みなし残業45時間・実際45時間 | 50万円 | 45時間 | 約2,460時間 | 約2,440円 |
| みなし残業45時間・実際60時間(未払い) | 50万円 | 60時間 | 約2,640時間 | 約2,270円 |
| みなし残業60時間・実際80時間(未払い) | 50万円 | 80時間 | 約2,880時間 | 約2,080円 |
※年収600万円、所定月160時間、超過残業代は未払いと仮定した概算。
同じ600万円でも実質時給に700円近い差が開く。転職先の「年収アップ」が実は時給ダウンだったというケースは珍しくない。
みなし残業は悪い制度ではない——ただし条件次第
公平を期して言えば、みなし残業制度そのものが悪いわけではない。次の条件を満たせば労働者にとっても合理的な制度になり得る。
- 実際の残業時間がみなし時間を下回る(→実質的な時給アップ)
- みなし時間が短い(月20〜30時間程度)
- 基本給が十分に高い(みなし分を差し引いても最低賃金を大きく上回る)
- 超過残業は必ず支払われる運用が徹底されている
特に「固定20時間含む、実際の残業は月10時間以下」という職場なら、みなし部分が実質的に固定収入の上乗せになる。重要なのは「みなし時間と実態のギャップ」だ。
よくある質問
Q. みなし残業は裁量労働制と何が違う?
裁量労働制は「労働時間の計算をみなし時間で行う制度」で、原則として残業代の概念がなくなる。みなし残業(固定残業代制)は通常の労働時間制を前提に、残業代の一部を固定払いにしたもの。仕組みが異なるが、どちらも「長く働くほど実質時給が下がる」点は共通だ。
Q. 転職エージェントが「実質年収は高い」と言うのは本当?
固定残業代を含んだ月給を12倍した数字を「年収」と呼ぶ場合、みなし時間分を実際に超えて働かなければその年収は実現しない。エージェントが提示する年収が固定残業込みかどうかを確認し、みなし分を差し引いた実質基本給ベースでも比較することが重要だ。
Q. 有価証券報告書の平均残業時間は信頼できる?
上場企業については、有価証券報告書への平均残業時間の記載が義務化されており、虚偽記載は金融商品取引法違反となる。TimeValueではこの公式データを使っているため、口コミサイトより客観性が高い。ただし「管理職」は労働時間の算出対象外となるため、管理職比率が高い企業では過少に見える場合がある点に留意してほしい。
まとめ
| 確認項目 | 判断基準 | チェック方法 |
|---|---|---|
| みなし時間 | 45時間以下が目安 | 求人票 |
| 実質基本給 | 最低賃金を十分に上回る | 月給からみなし分を逆算 |
| 実際の残業時間 | みなし時間との乖離が小さい | 口コミ・有報・TimeValue |
| TEI(タイム効率指数) | 業界平均以上 | TimeValue時給ランキング |
| 超過残業代の支払い | 必ず実費払い | 面接で確認 |
みなし残業求人を「やめとけ」と一概に断じるのは早計だが、設定時間を大幅に超える労働が常態化している企業は確実に損だ。転職・就活では額面年収ではなく実質時給で判断することが、コスパ・タイパの高いキャリアを築く鉄則だ。
気になる企業の実質時給・TEI・残業時間はTimeValueの時給ランキングで検索できる。新卒・第二新卒の方は新卒ランキングも合わせて活用してほしい。また、ブログ記事一覧では「年収が高いのに時給が低い会社の特徴」など、関連する実質時給コンテンツも掲載している。
本記事の時給データおよびTEIは、EDINETに開示された有価証券報告書および厚生労働省データを基に TimeValue が算出した推計値です。個別企業の判断に際しては最新の開示情報も合わせてご確認ください。